3年生のSクンの話を。
Sクンは、髪を染め(もしかして脱色かも)、男の先生には特に反抗的な態度を取る生徒です。
彼はたまに、一人で図書室にフラッと現れては、話しかけてきます。それも本の話。
「あのさ、”ながぐつをはいたネコ”っぽいのない?」
「童話の、大人向けに書いたヤツってない?」
「”ライ麦なんとか~”っていうのある?」
「ドリトル先生ってある?」
「硫黄島っぽい本ってどこ?」
ほんとに、たま~に現れる…という感じでした。外見や口の利き方などから、この子は気まぐれに図書室に来てるのかな?本は借りていくけど、ちゃんと読んでいるのかな?と勝手に思っていました。偏見ってやつです。
ところが、部活を引退したあたりから、Sクンの図書室に来る頻度がどんどん高まってきました。
そして最近になって
「なんかオススメない?」
まっすぐ顔を上げて話しかけてきたんです。ワタシ的には”あれ?どうした?”って感じでした。
彼のこれまで借りていった本が、”ちょっと暗めの社会的な傾向”の本なのを思い出して、『弟の戦争』 (ロバート・ウェストール/徳間書店)を薦めてみました。
「オススメは?」と、初めて聞いてくる生徒に対しては、私はものすごく緊張します。”本に対する信頼””私に対する信頼”のダブルが試されるような気がするからです。
ここで成功すると次回も必ず来てくれるので、失敗したくない。
『弟の戦争』なら長さもちょうどいいし、「小学生高学年以上」なのでさほど難解ではない。何より、イラク軍の少年兵と”弟”の人格が入れ違う…というストーリーが、男子の心をつかむのではと思いました。彼は、表紙の絵とタイトルを見て、黙って借りていきました。ワタシ的には、彼の心にヒットするかどうか、とても心配でした。
***
次の日の放課後、Sクンは図書室の大股で入ってきました。
「これ、読んだ。おもしろかった!」そして、「他になんかない?」
ああ、よかった。(ものすごくホッとしました)
『弟の戦争』が読めたなら、もっと対象年齢を上げても大丈夫だなと感じたので、次に薦めたのは、 『縞模様のパジャマの少年』 (ジョン・ボイン/岩波書店)。
彼は、表紙とタイトルを見て、ちょっと不安に思ったのか、
Sクン:「これ、どんな話?」
私 :「ナチス・ドイツだよ」
Sクン:「お!借りるわ」
え?
商談がいきなりまとまった感じで、あっけにとられた感100%。
***
次の日。図書室に来るやいなや、Sクンは大声で話し始めました。
「読んだ読んだ!あれさ、あの子も死んじゃうんだよね。ガス室に入っちゃったってことでしょ?!」
一晩で読んでくれたんだなぁって嬉しくなり、私もちょっと興奮して、
「手をつないだままってところが悲しくなかった?お父さんがフェンスの前でぼう然とするところ、切なくなかった?」と矢継ぎ早にしゃべってしまいました。
Sクンは、うんうんと頷いてくれて。
それを見たとき「ああ、この子と心がつながっている!」と痛いほど感じ、ちょっと泣きそうになってしまいました。(年をとるとコレだ)
***
その後、 『パーフェクト・コピー』『時間をまきもどせ!』『チョコレート・アンダーグラウンド』と薦めました。
Sクン、キミはスゴイ読書家だよ。このことを担任の先生は知っているのかな。
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